「最も進化した植物」といわれるラン科植物のなかには、奇妙な花を咲かせるものが数多く存在します。「いったいどうしてこうなったのか」という疑問を投げかけるヘンテコ系ラン植物をいくつかご紹介します。
ランは「最も進化した植物」
数年前からビザールプランツなる言葉をよく聞くようになりましたが、ラン科植物にもビザールな植物はたくさんあります。
ラン科植物は、キク科と並んで植物界最大の種を形成し、単子葉植物の進化の頂点に位置する「最も進化した植物」といわれています。
「最も進化した」というのはちょっとわかりにくいですね。「進化の結果、高度な多様性を獲得した」という意味なんじゃないでしょうか。
ランは、世界各地のエクストリームな環境に適応し、必要であれば新しい場所へ進出し、姿を変え、生き残るための新しい戦略をとりいれてきました。
「人と違うことしないと生き残れないわ!淘汰されちゃう!」という芸能界のような厳しい世界に生きてきたのです。
その結果、なかには「どうしてこうなった?」という不思議な進化をとげるものも出てきました。
オフリス
先ほど「芸能界のような」といいましたが、植物はいったい誰の注目を集めようとしているのでしょうか?
お金持ちの男の人?
最近の傾向としては間違ってないような気もするけど・・・、ブーッ、違います。昆虫や鳥です。昆虫や鳥に花粉を運んでもらって受粉をするためです。
ビーオーキッドとも呼ばれるオフリスの一種です。ハチに見えませんか?
オフリスはハチのメスになりすましてオスを引き寄せます。そして、花と交尾しようとするオスの身体に花粉がつきます。オスはまた別の花にいって交尾しようとします。こうして受粉が成立します。
オフリスは地生ランの一種で、欧州からトルクメニスタンまで広く分布しています。
共生する蘭菌がないと生きられないため野生の株の採取は禁じられており、ワシントン条約附属書IIで保護されています。
マルハナバチにそっくりなオフリスです。かわいいですね。欧州ではハチが激減しているそうですけど、オフリスは大丈夫でしょうか。
これは丸っこくてかわいい。でも一番上のピンクが入るタイプが一番きれいかな。育てるのは難しそうですね。
ブラッシア
尖ったルックスのブラッシア。中米・南米が原産で、黄色やオレンジのベースに茶色や黒の模様が入ります。花弁が長く伸びているのが最大の特徴です。上のオフリスはハチに似ていますが、クモに似ていますよね。スパイダーオーキッドとも呼ばれます。
オフリスのポリネーター(花粉を運ぶ送粉者)はハチでしたが、ブラッシアのポリネーターは何でしょうか?
クモと答えたくなりますよね。ブーッ、違います。同じくハチです。
では、なぜハチを引き寄せるために、ブラッシアはクモに擬態しているのでしょうか。
ブラッシアの花粉を運ぶハチは狩りバチの一種で、狩りバチのメスはクモを捕まえて針で刺して麻痺させ、卵を産みつけ、幼虫のための生きた植物供給源にします。
ブラッシアはクモによく似ているので、メスの狩りバチはブラッシアに針を刺そうとします。そのときに花粉のかたまりがハチの身体に付着します。
狩りバチは身体に花粉のかたまりを付けたまま、また別のブラッシアに行って針を刺そうします。このようにクモに卵を産みつけようとするハチによって、花から花へ花粉が運ばれているのです。
頭いいな、ブラッシア。かっこいいだけじゃないね。シャキーン、って感じだよね。
アングレカム・セスキペダレ
アングレカム・セスキペダレは、ダーウィンの予言で有名なマダガスカルのランです。30センチもの長い距(きょ)が特徴です。見た目のインパクトに欠けますが、進化の研究において重要なヒントをもたらした植物です。
この長い距の奥には蜜腺があります。
ダーウィンは1862年に出版したランについての本の中で、この距と同じ長さの口吻を持つガが存在するに違いないと予言しました。
そしてダーウィン没後の1903年に、まさにそのような非常に長い口吻を持つキサントパンススメガ(別名ダーウィンスズメガ)が発見されました。アングレカム・セスキペダレとキサントパンスズメガは、長い時間をかけて「共進化」を遂げ、現在の形になったのです。
キサントパンスズメガとともに、数年前の東京ドームラン展に展示してありました。アングレカム・セスキペダレそのものは、けっこうよく見ますかね。
上記の3種はランダムに生じた変異が、ハチやガといった昆虫によって選抜された結果、長い時間をかけて、このような形になりました。
オルキス・イタリカ
妖精がたくさん飛んでいるように見えるオルキス・イタリカは、地中海地方に分布し、その学名は「イタリアの蘭」を意味します。英語の別名は・・・。
ネイキッド・マン・オーキッド(裸の男蘭)。
え?
ガラスケースに入っていてピントがあわせにくかったので、あまりよくわからないかもしれませんが、ふざけた英語名のわりには本当にきれいで、ひらひらと帽子をかぶった妖精が踊っているみたいに見えます。ただ、男の妖精です。
しかしなんでこんな形なんでしょうか。自生地を見ると普通の草原なんですよね。
ハチ。
わかる。
クモ。
わかる。
ガ。
わかる。
ひらひらと集団で飛ぶ裸の男たち。
・・・・。
きっと草原に暮らす妖精たちが花粉を運んでいるのでしょう。いずれ発見されると思います。予言しておきます。
おわりに
植物を見ていると、どうしてこうなってるんだろうという疑問がわいてくることがありますね。1月は池袋サンシャインで、2月は東京ドームでラン展が開催されます。ぜひ植物の不思議に興味がある方は足を運んでみてください。
ではまた。
あ、帯にオルキスの絵がある。最近こういう子ども向けの本多いよね。