今日はミニ胡蝶蘭の育て方を解説します。ミニ胡蝶蘭は、ポイントをおさえれば、ラン初心者にも咲かせやすいランだと思います。
最近はホームセンターでもさまざまな色のミニ胡蝶蘭がお手頃な値段で売られていますから、ぜひ購入して育ててみてください。
真冬のミステリー
一昨年の2月下旬、夜の散歩に出かけ、東京ドームの近くを歩いていたときのことだ。植物を見ながら歩くのが好きなわたしは、この夜も道路脇の植え込みに視線を落としながら歩いていた。
「はあ、東京ドームも終わったし、早く春にならないかなあ」
そして、とある商店の前にある植え込みに差し掛かったとき、わたしはそこにあってはならないものを見つけてしまったのである。
冬の凍てついた地面に植えられたミニ胡蝶蘭を。
いったい誰が? 何のために?
トシコ、68歳。ヒロシ、69歳。
東京ドームの近くに住んでいながら、ふたりがラン展に足を運ぶのはその年が初めてだった。
もともと植物にそれほど興味があるわけではないが、十数年ぶりに新聞を変えてみたところ、新聞屋がトイレットペーパーと一緒にラン展の招待券をくれたのである。
最終日、ラン展の会場でトシコが言った。
「お父さん、ひとつ買って行きましょうよ。500円にまけてくれるそうよ。このピンクのいいじゃない」
そして数週間後、
「花が終わっちゃったわ。お父さん、これどうしましょう?」トシコが食卓を拭きながら、食卓の上に置かれていた胡蝶蘭のビニールポットを持ち上げた。
「地面に植えておけば来年また咲くんじゃないか?」
「そうね、じゃあ前の植え込みにでも植えておくわ」
翌朝、寒風のなか、トシコは植え込みの土を掘り、ていねいに胡蝶蘭を植え付けた。
誰も悪くない。責められるべきものはいない。捨てたわけではないのだ。しかし、いまわたしの前で、胡蝶蘭は確実に死に向かいつつある。
トシコは胡蝶蘭が翌年も咲くことを期待してわざわざ植えたのだ。ヒロシの言うように、だいたい植物は土に植わっているものなのだ! そうだろう、胡蝶蘭!
「いいえ、わ、わたしは、胡蝶蘭じゃありません。チュ、チュ、チューリップなんです。食卓に置いてもらって、そのうえ土に植えてもらって・・・、わたしは・・・、し、し、しあわせ・・・です」
そうか、チューリップなのか。わたしが悪かった。余計な心配をしてすまなかった。
「わ、わたしのことは、忘れてください。そして来年、東京ドームで、こ、こちょうらんを買ってください・・・」
そうか、わかった。
わたしは、ふたたび歩き出した。
春は、もうそこまで来ていた。
=終わり=
「育て方」で検索して飛んできたのに駄文を読ませられる。詐欺ですね(笑)。しかしこれは本当の話です!
前置きが長くなりましたが、今年も大勢の人が東京ドームでミニ胡蝶蘭を購入すると思うので、わたしとミニ胡蝶蘭の歩みを振り返りつつ、育て方のポイントを解説します。
ミニ胡蝶蘭との出会い
下の写真の手前にあるのが、わたしが最初に購入した胡蝶蘭です。マイビビアンという名前で売っていました。980円だったので、まあ枯れてもいいかという気持ちで衝動的に購入しました。トシコと同じなのです。
最初は苦労の連続でした。翌朝ものすごい大雪が降り、急激な環境変化のせいか、つぼみが落ちたり、葉っぱがグニョグニョになったりしました。軟腐病なのかと思って薬も塗ってみました。夜はゆたぽんと一緒にダンボールに入れて、なんとか危ない時期を乗り越えました。
ゆたぽんが効果があったのかは正直よくわかりませんが、残ったつぼみが先端まで咲いてくれ、長期間楽しむことができました。(瀕死の状態だったためこのような処置をしましたが、環境になれればそこまで神経質にならなくても大丈夫ですよ)。
後ろの2つは東京ドームで購入しました。白いのはドリテノプシスです。右のは奇形花で、おまけでもう1つ小さな胡蝶蘭をもらいました。
置き場所・温度
カーテン越しの窓辺など、室内の明るい場所に置きます。明るい場所であれば、一年中室内でも大丈夫です。
直射日光にあてると葉焼けしやすいので、外に出すならば十分に遮光してください。胡蝶蘭は葉っぱの出る数が少ないので、葉焼けさせると致命的になります。初心者は無理して出さないほうがいいと思います。
意外と窓辺でも真夏は熱くなります。葉を触って暖かくなっているようだと少し危険です。
真冬の夜は、窓辺は寒くなるので移動させてください。とくにつぼみができてからが要注意です。寒いとしぼんで赤くなって落ちてしまいます。
わたしの実家では、冬の朝方は室内でも10度を下回り、5度以下になることもあります。一般的に胡蝶蘭は15度、最低でも10度はあったほうがいいといわれているので、やや厳しめの環境です。種類や個体によって耐寒性が微妙に違うので、弱そうなものは暖かくしてあげてください。
最高最低温度の測定には、デジタル温度湿度計が便利です。
温度が足りなければ、こちらのペット用保温マット「ピタリ適温プラス」を使って簡易温室をつくることもできます。胡蝶蘭を載せて、プチプチで囲ってあげて、うえにサランラップでふたをしました。いまはマットに載せてあるだけですが、囲いをしていたときのほうが早く咲いたので、育ちはいいと思います。温度が十分あれば不要です。暖かすぎると花芽ができなくなります。
水やり
根に水を蓄えているので、水をやらなくてもそう簡単に枯れませんが、やりすぎると根が腐ってしまいます。水苔は表面が乾いても中は湿っています。
暖かい時期はたっぷりあげてもいいのですが、冬に加温設備がないところでたっぷりあげるとなかなか乾きません。ただでさえ寒いのに、足元がずっと濡れていたらどうでしょう?
水やりの頻度は、置き場所の環境しだいなので、胡蝶蘭に聞きながら(?)あげてください。初めの頃、どこかに「葉水をするといい」と書いてあったのでやってみたら葉っぱがグニョグニョになりました。真冬に水責めの刑。トシコを笑えません。
わたしの場合、窓辺のテーブルの上に置いているので、水苔がカラカラに乾いていたら、台所に持って行って上から水をかけます。葉の中心に水が溜まるので、逆さまにしてその水は捨てます。
冬の水やりは、とくに寒くなる地方の場合、頻度・量ともにごく少なめにしたほうが安全です。寒いとなかなか乾かないので、花芽が赤くなって枯れてしまいます。また水苔の詰め方がゆるいと、なかなか乾きません。乾きが悪いようなら、霧吹きなどで湿らせる程度にしておきましょう。
成長期には、ごく薄めの液肥をあげると生育がよくなります。できれば洋ラン用の液肥を使用してください。やりすぎは禁物です。
植え替え
購入した胡蝶蘭はビニールポットに入っていますが、冬のうちは植え替えないでください。わたしは花が先端まで咲いたら根元から切って花瓶に生けています。切ってからもかなり長く咲いています。いつまでも咲かせていると株が疲れるので、早めに切ったほうがいいと思います。
4〜5月にじゅうぶんに暖かくなったら植え替えします。寒の戻りに気をつけてください。各地で気候も違いますし、置き場所も室温も違うので、いつとは言いにくいですが、早いよりは遅いほうが安全です。八重桜が咲き終わるまでは待ったほうがいいんじゃないでしょうか。
今年は冬が寒かったので、うちでも開花していない株があります。まだつぼみが咲いていないものは咲いてからにしましょう。
基本的には、胡蝶蘭を見て、根の先端が成長しはじめたかどうかを見て判断してください。新葉が出てきたらすでに成長期に入っています。この頃でも大丈夫です。気温が低いと植え替えた水苔が乾くまで時間がかかります。胡蝶蘭は寒がり。植え替えはしっかり暖かくなってから。これ大事!
鉢は素焼き鉢などを使います。根をいれてみて隙間ができないくらい小さめのサイズを選んでください。大きすぎると水苔が乾かないので根腐れします。ミニ胡蝶蘭ならば3号鉢がいいと思います。小さめの株なら2.5号で。
植え替えの手順を説明します。
- 胡蝶蘭を鉢から抜いて古い水苔を丁寧にとります。黒くなって腐っている根は取り除きます。
- 水苔を水で戻し、水をよく絞ります。絞った水苔を新聞紙のうえに置いて、ほぐします。
- 鉢底にネットを敷きます。
- 水苔をぎゅっと握って小さいボール状にして胡蝶蘭の下にあてがいます。根の周囲に水苔を巻いて、鉢よりも大きめのボール状にします。
- そのまま鉢にぎゅっと押し込みます。横はきつめに、底は空間ができるようにします。
上の写真は初めて植え替えをしたときの写真ですが、ウォータースペースがちょっとなさすぎだと思います。
植え替え後は2週間くらいは水をあげないようにします。根腐れを防ぎ、発根を促すためです。一番下の葉が黄色くなってくることがありますが、葉の水分を利用しているので、干からびて自然にとれるまでとらないようにしてください。
植え替えの手順をより詳しく解説しています。上記関連記事もご覧ください。写真があるのでわかりやすいと思います。
これは翌年の写真ですが、植木鉢が変わっているのでやり直したようです。本当はあまり根はいじらないほうがいいのですが、暖かいうちならやり直ししても大丈夫です。
素焼き鉢の欠点は、表面にカビの黒い点々ができやすいことです。通気性は落ちますが、防カビ作用のある水性ペンキを塗ると表面がカビません。
これは実家に置いてある東京ドーム組です。右の小さめのはおまけでもらったもの。相変わらず小さいけど、小さいなりに花が咲きます。
植え替えすべきかどうかは株の状態によるので、毎年しないといけないわけではありません。一般的には2、3年に1回くらいでしょうか。ちょっと根が鉢の外に出すぎだなとか、水苔の乾きが悪いな(鉢の中の根の状態が悪い)と思ったら、根のチェックもかねて植え替えするといいと思います。
秋の植え替えは危険
ミニ胡蝶蘭はほぼ一年中開花したものが出回っていますが、あれは温室などで開花調整をしているためです。家庭で栽培する場合の開花サイクルとは違います。
家庭で栽培する場合、秋に茎が伸び始め、冬から春に開花します。18度以下にならないと、胡蝶蘭は花芽ができません。開花後から秋までの暖かい時期に葉や根が成長し、光合成によって糖を蓄えて、そのパワーで冬から春に開花するわけです。
そのため、あまり遅い時期に植え替えると、植え替えからの回復にパワーを使い果たしてしまい、花芽が出なくなる可能性があります。とくに家庭での成長サイクルに戻っていない株は、人工的に開花した状態にあり、根や葉を成長させることができないまま、再び冬に突入することになります。
またランは着生植物なので、鉢にガチッと根を張った状態でないと、「花とか咲かせてる場合じゃない」となります。場合によっては、葉も犠牲になります。葉の数が減れば、ますます花芽ができにくくなります。
寒くなってから購入したミニ胡蝶蘭の植え替えは、次の植え替えシーズンまで待ちましょう。ビニールポットに入っている場合は、ビニールポットのまま鉢に入れておきます。ビニールポットは乾きにくいので過湿に注意します。
ただし、すでに根腐れがひどい場合などは、悪化を防ぐために腐った根を取り除いて植え替えたほうがいいでしょう。
以上、素人による育て方解説でした。本当は1冊だけでいいので本を買ったほうがいいですよ。
わたしの持っている本。解説や写真が詳しくておすすめなのですが、絶版なので中古で購入するしかないです。
これ欲しい。本気でランをやりたい人向けかしら。ちょっとお高いけど。
おわりに
わたしは2014年春にマイビビアンを購入するまで「胡蝶蘭なんて育てられない」と思っていました。
しかし購入してみたら、水やりも少なくて平気なので留守番ができるし、室内に置きっぱなしでも大丈夫だし、ふつうの草花よりも世話がいらないくらいでした。
東京ドームのラン展では1本1000円くらいでしょうか。終わりに近づくにつれ安くなるので、最後は500円くらいですかね。
これも500円。今年も東京ドーム周辺をパトロールしますので、地植えの胡蝶蘭を見つけたらお仕置きしますよ!
ふちが黄色でちょっと個性的。欲しい。
ビビアンの黄色っぽいタイプ。これも欲しい。