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余暇のすすめ。セネカとチャーチルに学ぶ自由な時間の使い方

チャーチルのアトリエ

余暇をどう過ごすべきか。ストア哲学のセネカと英国首相ウィンストン・チャーチルから、人生における自由な時間の重要性、その使い方について考察します。

セネカの「余暇」

数年前から海外ではストア派哲学が密かなブームです。解説本ではライアン・ホリデイの本がベストセラーになっていますが、どうせ読むならオリジナルをと思って、以前、ストア派のひとりであるセネカの書簡集を読みました。

ストア派というと学校では禁欲主義として習った気がするので、なんかクソ真面目なことが書いてあるのかなと思いきや、「仕事をやめろ」とか「自由な時間をつくれ」とか書いてあるのです。あれ?

セネカはローマ帝国の政治家・哲学者で、暴君として有名な皇帝ネロの助言者でした。『余暇について』を書いたのは、彼がネロの暴虐ぶりに困り果てて引退を申し出た頃です。しかし最終的にセネカは、ネロに自殺を命じられ、自ら命を絶ちます。

セネカの死 ルカ・ジョルダーノ

『セネカの最期』ルカ・ジョルダーノ(1773年)

ネロは今でいうどっかの国の将軍様みたいな人だったんでしょうか。サイコパスが権力を持つとたいへんなことになってしまいます。

自殺する前にセネカはこう述べたそうです。

「ネロの残忍な性格であれば、弟を殺し、母を殺し、妻を自殺に追い込めば、あとは師を殺害する以外に何も残っていない」

セネカはもっと前に書かれた別の書簡『生の短さについて』のなかでも、友人に向かって、いつまでも名誉を求めて仕事をしていないで自分にとって本当に重要なことをしなさい、ということを語っています。

命は有限なのだから、自由な時間を作って本当に大事なことをしなさい。そのためには自分を律すること、情動を抑えること、自己を省みること、名誉は求めないことが重要だよ。そういうことをセネカは他の書簡でも繰り返し述べています。

なのにネロに死ねって言われちゃうって悲しすぎ(涙)。まだやりたいことあったろうに。逃げろ。サイコパスからはダッシュで逃げろ。

セネカにはサイコパス理解に役立つ名著『平気で嘘をつく人たち』をプレゼントしたいですね。

 

チャーチルの余暇の過ごし方

英国首相ウィンストン・チャーチルは油絵が趣味で、「Painting as a Pastime(趣味としての絵画)」という本まで描いています。

チャーチルのアトリエ

ロンドン郊外にあるチャーチルの自宅「チャートウェル」に行くと、池のほとりにアトリエがあります。壁にはチャーチルの描いた絵がたくさん飾られています。

チャーチルのアトリエ

チャーチルは、ときどきやってくるうつ症状に苦しみ、それを「黒い犬」と呼んでいました。第1次世界大戦中の1915年には、自らの計画で遂行したガリポリ上陸作戦で50万人もの死傷者を出して失脚し、その後、ひどいうつ状態に陥りました。

そんなある日、ふと子ども用の絵の具で遊んでみたところこれが面白く、翌朝には油絵のセットを注文していたそうです。40歳までは絵筆を持ったことさえありませんでした。

絵筆を持つと無心になれるから、チャーチルも「これはストレス解消にいい」と思ったのでしょう。人生をともに歩むことのできる友のようだ、とまで言っています。そういう趣味が人生半ばで見つかるって面白いですね。でも早いほうがいいよ、とも言っています。

もしかしたら生まれる家が違っていたら、チャーチルは絵描きになっていたかもしれませんね。

『チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力』

これボリス・ジョンソンが書いたんだそうです。すごいね。

 

あなたがどのような人間かは余暇の過ごし方に表れる

ストア派の哲学者が好んで引用していたローマの詩人、オウィディウスは「どのような人間であるかは、余暇の過ごし方に表れる」と述べています。

チャーチルのアトリエ

別に高尚な趣味じゃなくていいと思います。オウィディウスの言うように、その人らしさは自然に表れるでしょう。無理に格好つけても続きません。世間的な評価を求めるのもほどほどにしないと仕事になってしまいます。

でも自分の好きなことをやりながら、それが少しでも世の中の役に立てば、なおすてきですね。そういう人が本当の意味でのストイック(ストア派的な人)なんじゃないかなと思ったり。

セネカは「人生は短い。されどよく使えば長い」と言っています。約2000年前に生きた人ですが、2000年後の人が読んでも励まされる文章を残しているってすごくないですか。すばらしい人生の時間の使い方ですね。

ではまた。

『生の短さについて』セネカ

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